

2025年4月、Adobe MAX Londonにて発表された内容は、多くのクリエイターにとってまさに「激震」でした。Adobe Fireflyの最新アップデートが、事前のアナウンスもほとんどない中で突如としてリリースされたのです。単なる機能強化にとどまらず、Adobeが生成AIの未来に向けて舵を切る、その強い意志を示すものでした。本記事では、この衝撃的なアップデートの全貌を解き明かし、特に注目すべきOpenAIおよびGoogleとの連携、そして実際に試してみた率直な感想と、クリエイターが抱えるであろう著作権への懸念について、深掘りしていきます。
Adobeの衝撃発表:2025年4月 Fireflyアップデートの全貌
今回のアップデートは、単なる機能追加ではありません。Adobe Fireflyを、AIを活用したコンテンツのアイデア出しから制作、プロダクションまでを一貫して行える「オールインワン・ホーム」として再定義する、野心的な内容です。
発表された主な内容は以下の通りです。
- 刷新されたFirefly Webアプリ: AI支援によるコンテンツ制作の統合プラットフォームとして位置づけられました。
- 新プロプライエタリモデル:
- Firefly Image Model 4: 従来モデルよりも高速かつリアルな画像生成を実現。構造やスタイル、カメラアングル、ズームに対するクリエイティブなコントロールが向上し、最大2K解像度での出力が可能です。迅速なアイデア出しや一般的なクリエイティブニーズの90%をカバーするとされています。
- Firefly Image Model 4 Ultra: より複雑なシーンや細部の描写、フォトリアリスティックな表現が求められるプロジェクト向け。人物や小さな構造物のレンダリングに優れています。
- Firefly Image Model 4: 従来モデルよりも高速かつリアルな画像生成を実現。構造やスタイル、カメラアングル、ズームに対するクリエイティブなコントロールが向上し、最大2K解像度での出力が可能です。迅速なアイデア出しや一般的なクリエイティブニーズの90%をカバーするとされています。
- Firefly Video Modelの正式版リリース: 業界初となるIPフレンドリーで商用利用可能な動画生成モデル。テキストプロンプトや画像から最大1080pの動画クリップ(5秒)を生成可能。
- Firefly Vector Modelの正式版リリース: テキストプロンプトから編集可能なベクターアートワーク(ロゴ、アイコン、パターンなど)を生成。
- Firefly Boards (パブリックベータ): ムードボード作成やコンセプト探求、共同でのアイデア出しを支援するコラボレーションワークスペース。
- Fireflyモバイルアプリの予告: iOSおよびAndroid向けに近日リリース予定。
これだけでも十分すぎるほどの大型アップデートですが、最も市場に衝撃を与えたのは、次に述べるニュースでしょう。
Adobeの垣根を越えて:OpenAI & Googleとの連携が意味するもの

今回の発表で最も驚きをもって迎えられたのは、Adobeが自社モデルだけでなく、OpenAIやGoogle Cloudといった競合他社のAIモデルをFireflyプラットフォームに統合するというニュースでした。これは、Adobeのこれまでの戦略からは予想しにくい、まさに「激震」と言える動きです。
統合される(または予定される)主なサードパーティモデルは以下の通りです。
- OpenAI:
- GPT image generation model (GPT-4oベース)
- GPT image generation model (GPT-4oベース)
- Google Cloud:
- Imagen 3
- Veo 2
- Imagen 3
- その他:
- Flux 1.1 Pro (Black Forest Labs)
- Flux 1.1 Pro (Black Forest Labs)
将来的に、fal.ai、Ideogram、Luma、Pika、Runwayなどのモデルも統合予定です。
Adobeがこの大胆な戦略に踏み切った理由は、ユーザーに「選択肢と柔軟性」を提供するためです。
ファーストインプレッション:拡張されたFirefly AIツールキットを試す
今回のアップデートで最も注目されるサードパーティモデルの統合。早速、その使い勝手や実力を試してみました。
まずアクセスについてですが、注意点があります。OpenAI GPT Image、Google Imagen 3、そしてAdobe自身のFirefly Image 4 Ultraといった高性能なモデルを利用するには、プレミアムプラン以上への加入が必要です。具体的には、Fireflyの単体プラン(Standard, Pro, Premium)や、特定のCreative Cloudのチーム版・エンタープライズ版(Proエディション以上など)が対象となるようです。通常のCreative Cloudコンプリートプランでは、これらのプレミアム機能へのアクセスは限定的か、含まれていない可能性が高いです。
また、これらのプレミアムモデルの利用には、通常のFirefly機能よりも多くの「生成クレジット」が消費されます。例えば、Imagen 3、GPT Image、Firefly 4 Ultraはいずれも1回の生成(画像1枚)あたり20クレジットが必要となります(※執筆時点の情報であり変更の可能性があります)。
インターフェースの使い勝手は非常に良好です。テキストから画像を生成する機能などでは、ドロップダウンメニューからAdobe、OpenAI、Googleといったモデルを手軽に切り替えることができました。これは、コンセプトを探る段階で様々なスタイルの出力を比較検討したい場合に非常に便利です。また、プロンプト入力欄に修正したい内容を追記していくことで、ChatGPTのように対話的に画像を修正・調整できる点も、直感的で使いやすいと感じました。
このシームレスなモデル切り替えと、生成されたコンテンツをPhotoshopなどの他のAdobeアプリに簡単に転送できる連携機能は、今回のアップデートの大きな魅力です。Adobeは単にモデルを追加しただけでなく、既存のCreative Cloudワークフローに深く統合しようとしています。スタンドアロンのAIツールを行き来する手間が省け、使い慣れたAdobe環境内で作業を完結できる利便性は、多忙なクリエイターにとって計り知れない価値を持つでしょう。この「利便性」こそが、Adobeがユーザーを自社エコシステムに引き留めるための強力な武器となっているのです。
ジブリ風問題:AIによるスタイル模倣と著作権の現実





さて、多くのクリエイターが気になっているであろう、AIによる著名なスタイルの模倣と著作権の問題。特に最近、OpenAIのChatGPT-4oが生成する「ジブリ風」画像が大きな話題となり、著作権侵害の懸念が広がりました。そこで、今回のアップデートで統合された各モデルが、Firefly内で「ジブリ風」というプロンプトにどう反応するのか、実際に試してみました。




Firefly内での「ジブリ風」画像生成テスト結果
モデル | 使用プロンプト | 結果 | 所感 |
Firefly Image 4/Ultra | 「ジブリ風」 | 拒否 / 無関係な画像を生成 | スタイル名を認識していないか、意図的にブロックしているように見える。 |
GPT Image (OpenAI) | 「ジブリ風」 | 生成に成功 | スタイル模倣が可能。Adobe統合下でもIPリスクの懸念は残る。 |
Imagen 3 (Google) | 「ジブリ風」 | 拒否 | Firefly内では、このスタイルに対してより厳格なブロックがかかっている模様。 |
このテスト結果は、非常に興味深い状況を示しています。Adobeが「商用利用において安全」と謳うFireflyプラットフォーム内であっても、統合されたOpenAIのGPT Imageモデルは「ジブリ風」画像を生成できてしまったのです。一方で、GoogleのImagen 3とAdobe自身のFireflyモデルは、これを拒否または認識しませんでした。
この背景には、AIによるスタイル模倣に関する複雑な著作権の問題があります。
一般的に、抽象的な「スタイル」自体は著作権保護の対象外とされていますが、特定の作品に由来する具体的で認識可能な表現要素を複製することは、著作権侵害にあたる可能性があります。
OpenAI自身も、当初はこの「ジブリ風」生成を許容、あるいは奨励しているように見えましたが、その後、ポリシーの変更や負荷の問題か、直接ChatGPTで生成することが困難になったとの報告もあります。
では、著作権と「商用利用の安全性」を重視するAdobeは、この状況にどう対応しているのでしょうか?
Adobeの「安全性」は、以下のような多層的なアプローチによって担保されています。
- 利用規約: 第三者の権利を侵害するコンテンツの作成禁止
- コンテンツクレデンシャル: 生成物にAI使用を示すメタデータ付与
- データプライバシー: Firefly経由での利用においてユーザーデータのトレーニング利用禁止
- 限定的な免責: Adobe Stockの補償スキーム(ただしFirefly全体への適用は不明瞭)
つまり、Adobeは「ガードレール付き」でアクセスを提供していると言えます。
最終的には、ユーザー自身の判断と責任が問われる部分が大きいというのが現実です。
Adobeの最終目標?究極のAIクリエイティブプラットフォーム構築へ
これまでの衝撃的なアップデート内容と、実際に試してみた結果から見えてくるのは、Adobeが目指す壮大なビジョンです。
それは、単なるツール提供者ではなく、
あらゆる生成AI機能を統合し、シームレスなワークフローと信頼性を提供する、究極の「クリエイティブAIプラットフォーム」
を構築しようとしているということです。
このプラットフォーム戦略は以下によって支えられています。
- コアとなる自社モデル: Firefly Image, Video, Vector, Audioの開発
- サードパーティモデル統合: OpenAI, Googleなどを取り込み多様な能力を提供
- ワークフロー統合: Photoshop, Premiere ProなどCreative Cloudアプリとの深い連携
- コラボレーション: Firefly Boardsによるチームでのアイデア創出支援
- アクセシビリティ: Webアプリ+モバイルアプリによる利用拡大
- 信頼と安全: 商用利用の安全性、コンテンツクレデンシャル、データプライバシー保護
AdobeのAI分野における今後の成功は、単一の最高性能モデルを持つことよりも、この「統合プラットフォーム」の魅力にかかっていると言えるでしょう。
今後の展望:Fireflyの進化と次回のレビュー予告
今回のAdobe Fireflyのアップデートは、生成AIを取り巻く状況が刻一刻と変化していることを改めて示すものでした。
OpenAIやGoogleとの提携、実際に触れて感じた利便性と課題、そして著作権に関する懸念。これらすべてが、AdobeがクリエイティブAIの統合プラットフォームへと突き進んでいることの証左です。
動画生成機能の正式リリースや、今後予定されているさらなるパートナーモデルの統合など、Fireflyの進化はまだ始まったばかりです。
次回:
- **新モデル「Firefly Image 4」「Firefly Image 4 Ultra」**の実力を徹底レビュー!
次々回:
- 正式版「Text-to-Vector(ベクター生成)」機能を深掘りし、デザインワークフローへの影響を探ります。
生成AIがもたらす興奮と課題の両方を見据えながら、これからも最新情報と実践的なレビューをお届けしていきます。ご期待ください。
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