生成AI市場に公取委が実態調査開始!巨大IT企業の囲い込み戦略を懸念?
生成AI市場に公取委がけん制
ちょっと硬い話になりますが、最近ニュースで話題になっている「生成AI」の記事について、詳しく解説していきたいと思います。
2024年9月30日、新聞各社が報じたように、公正取引委員会(公取委)が生成AIの関連市場について実態調査に乗り出す方針を固めました。
背景には、Google、Microsoft、Metaといった米巨大IT企業が、生成AIの開発に必要なデータや半導体、人材などを囲い込む動きを強めていることがあります。
公取委は、このような状況が国内企業の成長を阻害し、健全な市場競争を妨げる可能性を懸念しているのです。
なぜ今、調査が始まるのか?
生成AI技術は、近年急速に発展しており、私たちの生活やビジネスに大きな影響を与える可能性を秘めています。
しかし、その一方で、巨大IT企業による資源の独占や寡占化が進むことで、
・新規企業の参入障壁が高くなる
・技術革新が阻害される
・消費者の選択肢が狭まる
といった問題が生じる可能性も指摘されています。
公取委は、これらの問題を未然に防ぎ、生成AI技術が社会全体にとってより良い形で発展していくよう、早期に実態調査に乗り出すことを決定したと考えられます。
公取委の資料「生成AIを巡る競争」を詳しく見てみよう!
①生成AI市場の特性や公取委の調査
1. 生成AI市場の特性について
- 市場規模は拡大・成長:生成AIは世界的なブームであり、今後も市場は拡大・成長を続けると予想されています。資料では、日本の生成AI市場規模は2023年の1188億円から2030年には1兆7774億円に達すると予測されています。
- メリットとデメリット:生成AIの普及・発展は、新たなイノベーションを生み出す可能性がある一方で、著作権侵害や偽情報など、社会を不安定化させるリスクも孕んでいます。
- 競争政策上の潜在的リスク:資料では、特に競争政策上の潜在的なリスクに注目し、公正な競争環境の維持と生成AIの健全な発展を両立させることの重要性を強調しています。
2. 生成AI関連市場に関する実態調査のための進め方
公取委は、生成AI関連市場における公正な競争を確保するため、実態調査に乗り出すことを表明しています。
その進め方として、以下の3つのステップが示されています。
- スタート:資料「生成AIを巡る競争」の公表と意見・情報募集
- 国内外事業者・有識者等へのヒアリング:市場関係者からの情報収集
- 必要に応じて独占禁止法・競争政策上の考え方の提示:調査結果に基づいた政策対応
3. アジャイル(機敏)な調査手法
生成AI関連市場は変化が速いため、公取委は機敏な調査手法を採用し、迅速かつ柔軟に実態を把握していく方針です。必要に応じて、独占禁止法・競争政策上の考え方を示すとしています。
- 生成AI市場の急速な成長と将来性
- 生成AI技術の光と影(メリットとリスク)
- 公正な競争環境確保の重要性
- 公取委の積極的な関与と柔軟な対応
公取委は、この調査を通じて、生成AI関連市場における競争を阻害する要因を特定し、適切な政策対応を行うことで、イノベーションを促進し、消費者利益の保護を目指すと考えられます。
②生成AI関連市場の3層構造
1.アプリケーションレイヤー
- 生成AIモデルを用いて、ユーザーに提供されるサービスやプロダクトを開発・提供する層
- テキスト生成、コード生成、画像生成、動画生成、音声生成など、様々なサービスが存在
- 例:ChatGPT、Bing AI、Bard、Stable Diffusion、Midjourneyなど
2.モデルレイヤー
- 生成AIの基盤となるAIモデルを開発する層
- 大規模言語モデル (LLM) をはじめ、画像生成AIモデル、音声生成AIモデルなど、様々な種類のモデルが存在
- 汎用型と軽量型、オープンソースとクローズドソースなど、開発・提供形態も多様化
- 例:GPT-4、PaLM 2、LaMDAなど
3.インフラストラクチャーレイヤー
- 生成AIの開発に必要な基盤を提供する層
- 計算資源(GPU等):AIモデルの学習や推論に必要な計算能力を提供
- データ:AIモデルの学習に用いる大量のデータを提供
- 専門人材:AIモデルの開発や運用に必要な専門知識やスキルを持つ人材を提供
- ※ クラウドサービスも重要な役割を果たすが、各レイヤーに跨るため、この図では明示的に記載されていない
- 生成AI関連市場は、3つのレイヤーが相互に関連し合って構成されている
- 各レイヤーには、多様なプレイヤーが存在し、競争が展開されている
- 生成AIサービスは、基盤となるAIモデルとインフラストラクチャーの上に成り立っている
- インフラストラクチャーレイヤーにおける競争状況が、上位レイヤーの競争にも影響を与える可能性がある
公取委は、この3層構造を踏まえ、各レイヤーにおける競争状況を分析し、生成AI関連市場全体における公正な競争環境の確保を目指すと考えられます。
③レイヤー横断的な事項・特性
1. インフラストラクチャー:生成AIを支える市場
- 計算資源(GPU等):生成AIの開発・利用には、GPUが重要な役割を果たします。NVIDIAが約80%のグローバル市場シェアを有しており、国内事業者もGPU獲得競争に直面しています。資料では、電力効率性や価格設定を重視した独自の半導体チップ開発に活路を見出そうとする動きも紹介されています。
- データ:生成AIモデルの学習には大量のデータが必要ですが、著作権等の制約があるため、国内事業者は学習データの取得に慎重です。日本語に特化したデータの重要性も指摘されています。
- 専門人材:生成AIの開発には高度専門人材が不可欠ですが、獲得競争が激化しており、ビッグテック企業に集中しやすい傾向があります。国内事業者にとって、限られた高度専門人材を獲得することは大きな課題となっています。
2. モデル:生成AIモデルの開発が行われる市場
- テキスト生成AIモデル:大規模言語モデルは、国内外で活発に開発競争が行われています。
- 国内事業者:日本語特化型や特定の業界や用途に特化した特化型の開発に注力する傾向があります。
3. アプリケーション:生成AIプロダクトの開発及び提供
- 生成AIプロダクト:オープンソース/クローズドソースや自社開発の生成AIモデルを使用して開発され、幅広い業種で利用されています。
- ビッグテック企業:生成AIプロダクトを提供し、既存のデジタルサービスとAPI接続を通じた機能統合を行う動きがあります。
4. その他:各レイヤーにまたがる事項や特性
- (1) クラウドサービス:大半の生成AI開発事業者は、ビッグテック企業等が提供するクラウドサービスを利用して開発を行っています。
- (2) 開発環境等の切替え・移行:生成AIモデルの開発環境やクラウドサービスの切替えは、コストや技術的な問題から困難な場合があります。
- (3) オープンソース/クローズドソース:オープンソースは新規参入を促進する一方、クローズドソースは悪用のリスクを低減します。
- (4) パートナーシップ:生成AI関連市場では、事業者間のパートナーシップが活発に行われており、競争を高める可能性と弱める可能性があります。
5. 項目ごとに意見・情報募集のための問を設定
公取委は、これらの項目に関して、広く意見・情報提供を募集しています。
- 生成AI関連市場における競争環境は、各レイヤーにおける様々な要因によって影響を受ける
- 特に、インフラストラクチャーレイヤーにおける資源(GPU、データ、人材)の確保が重要
- 国内事業者は、日本語特化や特化型モデル開発など、独自の強みを活かした戦略が必要
- クラウドサービス、オープンソース/クローズドソース、パートナーシップなど、レイヤー横断的な要素も競争に影響を与える可能性がある
- 公取委は、これらの要素を総合的に考慮し、生成AI関連市場における公正な競争環境の確保に努める
公取委は、今後、これらの情報提供を基に、更なる調査や分析を行い、必要に応じて独占禁止法・競争政策上の考え方を示していくものと思われます。
④生成AI関連市場における独占禁止法・競争政策上の論点
1. アクセス制限・他社排除
- 生成AIの開発に必要なGPUやデータなどを、一部の大手企業が囲い込むことで、新規参入の機会が失われる可能性。
- 例:GPU市場におけるNVIDIAのような、特定事業者による市場支配力の強い状況下では、アクセス制限や他社排除が行われると、競争に影響を及ぼす可能性があります。
2. 自社優遇
- 生成AIモデルの提供事業者が、自社の商品やサービスを優遇するように生成AIモデルを開発することで、競争に影響を与える可能性。
- 例:検索サービスを提供する事業者が、自社の生成AIモデルの推論結果において、自社サービスを優遇するように設計すると、競争に影響を及ぼす可能性があります。
3. 抱き合わせ
- あるサービスにおいて有力な地位を有する事業者が、自社の生成AIモデルの使用を抱き合わせて提供することで、競争に影響を与える可能性。
- 例:OS等のプラットフォームにおいて有力な地位を有する事業者が、自社プラットフォームの利用条件として、自社の生成AIモデルの使用を抱き合わせて提供する場合、生成AIモデルに係る競争に影響を及ぼす可能性があります。
4. 生成AIを用いた並行行為
- 生成AIによる価格調査等により、協調的な価格設定につながる可能性。
- 例:生成AIによる価格調査等により価格競争が活発になる場合がある一方、基礎となるデータやアルゴリズムが一致することにより、価格戦略や生産目標等が同一又は類似する状況が想定され、競争に影響を及ぼす可能性があります。
5. パートナーシップによる高度専門人材の獲得
- 高度専門人材の囲い込みを企図したパートナーシップが、競争に影響を与える可能性。
- 例:高度なスキルを有する専門人材の囲い込みを企図し、パートナーシップを締結することによって、実質的に事業譲渡と同様の効果を生じさせる場合には、競争に影響を及ぼす可能性があります。
- 生成AI関連市場は、従来の市場とは異なる競争上の課題を抱えている
- 公取委は、独占禁止法の枠組みを活用し、これらの課題に適切に対処していく方針
- 生成AI技術の健全な発展と消費者利益の保護のために、公正な競争環境の確保が重要
公取委は、今後、これらの情報提供を基に、更なる調査や分析を行い、必要に応じて独占禁止法・競争政策上の考え方を示していくものと思われます。
公取委はどう対応する?
公取委は、アンケート調査やヒアリング調査などを通じて、生成AI関連市場の実態を詳しく把握し、競争阻害行為があれば独占禁止法に基づいて厳正に対処する構えです。
具体的には、
- 巨大IT企業によるアクセス制限や自社優遇
- 新興企業の人材囲い込み
- 生成AIを用いた価格操作
などが調査対象となると考えられます。
さらに、国際的な連携を強化し、海外の競争当局と協力して、生成AI関連市場における公正な競争環境の確保に努めるとしています。
まとめ
生成AI技術は、今後ますます発展し、私たちの社会に大きな変化をもたらすことが予想されます。
公取委の調査によって、生成AI関連市場における公正な競争が確保され、イノベーションが促進されることを期待しましょう。